デザインテック思考(Design Tech Thinking)という提案

2019年4月3日

この記事で、デザインテック思考(Design Tech Thinking)という考え方を提案させてください。

先にイメージだけで言ってしまうと、「これら3つの絵のうち、左のものが何かと使い勝手があります」という考え方です。右が「現物(モノ)」、真ん中が「モノを作る方法」、左が「モノを作る方法を作る方法」です。

デザインテック思考というものを提案する動機は、「日常生活で良いアウトプットを速く出すために、モノづくり企業などで培われてきた設計技術をうまく活用できるはず」という発想から生まれました。

Note: 後にも書いていますが、「デザインテック思考」は新たに作った言葉です。これから広く使われていくと嬉しく思います。

設計とは

あらためて考えてみます。そもそも「設計」とは何でしょうか? 大辞林 第三版によると、次のような定義です。

・機械類の製作や建築・土木工事に際して、仕上がりの形や構造を図面などによって表すこと。
・人生や生活の計画を立てること。

ちょっとカタイですね。すこし柔らかく一般化してみると、「設計(する)」とは「モノを作る方法(を作ること)」で良いと思います。例えば、部品の設計図はモノを作る方法の一つです。

設計技術とは

「設計技術」という言葉があります。

技術とは、簡単に「上手に作る方法」で良いと思います。

ですので、設計技術とは「モノを作る方法を上手に作る方法」です。

設計技術は、モノづくり企業の開発・設計の現場で使われる、製品を設計するために活用されています。技術というと抽象的ですが、例えば設計支援ソフトウエアなどのツール、考えるプロセスや手法などいろいろな形態あります。

上手に設計ができると、付加価値が大きくなり競争力が上がりますので儲かります。ですから、モノづくり企業は、費用をかけて優れた設計技術を開発・導入してきました。

例えば、コンピューターシミュレーション技術はその一種です。モノを製造したあとで、性能が悪いことがわかったら作り直すための時間と費用がかかります。いわゆる「手戻り」の発生です。これを減らすためには、モノを作る前に性能を確かめなければなりません。そのために、仮想の計算上の世界で性能を知ることができるコンピューターシミュレーション技術が使われます。

近年、有名になったデザイン思考 (Design Thinking)も広い意味で設計技術の一つといえるでしょう。 主に、ユーザーが本当にほしいもの(インサイト)を見つけるための方法です。デザイン思考についてサッと知りたい方は、 アイリーニ・デザイン思考センターが提供しているYoutube(字幕付き、無料)「デザイン思考家になるための90分集中講座 -スタンフォード大学 d.school教室-」で体験してみることをおすすめします。この類の手法は、説明されると(私は)眠くなりますが、一度やってみるとよくわかります。

コンピューターシミュレーション技術は計算機を使うデジタルな手段ですが、デザイン思考は付箋やホワイトボードや紙や粘土などが活躍するアナログな手段です。他にも、様々な目的のための様々な手段があり、モノづくりの世界で日々進化しています。

設計技術からデザインテックへ

「設計技術」と言うと、一部のモノづくり企業のエンジニアが製品を設計するために使う技術という狭い意味合いが強くなります。そこで、広く「モノを作る」というイメージを表すためには、「デザインテック」という言葉が使いやすいと考えました。

「設計技術」は英語で「Design Technology」ですから、「Design Tech」はそれを短縮してカタカナ読みしたけなのではないか。結局、日本語にすると「設計技術」ではないか。そう思われたかもしれませんが、「Tech」とすることにより、「Technique」という「技法」、「手法」、「方法」、(これはそのままですが)「テクニック」などの意味を持つ言葉の短縮とも取れるようになります。こうすることにより、一般的な方向に意味に広がりを持たせました。

デザインテック思考

思えば、私たちは、日々の仕事や生活において、文章、プレゼン資料、料理など、さまざまなモノを作っています。であれば、モノづくり企業が熾烈な競争を勝ち抜くために進化してきた「設計技術」を活用すれば、良いモノを作れる可能性が高まるのではないか。このような考え方を「デザインテック思考(Design Tech Thinking)」と呼ぶことにします。私が創った言葉です。文言で定義をしておきます。

「デザインテック」の定義: モノを作るための方法を上手に作る方法

「デザインテック思考」の定義: モノを作るときに、デザインテックから検討すること

もう少し柔らかくいうと、デザインテック思考とは、「どのデザインテックを、どのように使えば、上手にモノを作る方法を作れるか?について考えること」という意味です。

例えば、料理を考えてみます。レシピは「料理(というモノ)を作る方法」が書いてありますから、「設計」です。具体的には、料理を何度も同じクオリティで早く作るための計画書です。このレシピを上手に作る方法がデザインテックです。

例えば、「レシピに書く肉の塊の加熱時間を決める」方法を考えます。「一人の料理人が勘で決める」という方法は一応デザインテックです。しかし、おそらく「複数のベテラン料理人が議論して決める」という方法の方が良いデザインテックでしょう。さらに、「コンピューターシミュレーションで熱の伝わり方を解いて決める」という方法もあるかもしれません。部分的に即興で試作してみるのも、ラピッドプロトタイピングというデザインテックです。どのデザインテックが良いでしょうか? 考える価値はあります。腕の良い料理人でも、悪いレシピで料理を作ったら、良い料理が作れません。たまたま良いレシピができても、ずっと他店に勝てるかはわかりません。常に良いレシピを作れる決まった方法があれば、ずっと繁盛できるでしょう。

このように、作りたいモノ(料理)を考え、そのために、どのようなデザインテック(勘? 議論? コンピューターシミュレーション? ちょっとだけ作ってみる?……)を使うと良い計画(レシピ)を作れるかを考えることがデザインテック思考です。

Note: レシピ通り調理するためにもテクニックは必要ですが、それはデザインテックではなく、モノ(料理)を作るテクニックです。デザインテックは、あくまでモノを作る方法(レシピ)を上手に作る方法(テクニック)です。

「逆」マトリョーシカのような「作る」の入れ子的連鎖

例として、人形を作りたい状況だとします。状況を単純化して考えてみます。

① 職人は、人形というモノを作ります。

② 設計者は、設計図を作ります。つまり、モノを作る方法を作ります。

③ デザインテックの開発者は、作図手順書を作ります。つまり、モノを作る方法を作る方法を作ります。

人形に着目すると、実物の人形は設計図の中に入れられ、設計図は作図手順書の中に入れられています。「作る」が増えていくにしたがって、人形の外側に「方法」の枠が増えていきます。マトリョーシカ人形の逆(?)のような構図です。

この後も続けられます。

技術コンサルタントは、作図手順書の作り方マニュアルを作ります(「作る」×4回)。

技術コンサルタントのコンサルタント(実際にいらっしゃいます)は、マニュアル化の方法を作ります(「作る」×5回)。

この先は実在するかどうかは知りませんが、原理的にはありえます。

モノづくりの世界では、高度な要求に応えられる、複雑で新しいモノを、速く作るために、職人→設計者→設計技術開発者→……と新しい職業が生まれてきました。

Note: モノづくりのための役割がシフトしているというよりは、必要な役割が増えてきているといえるでしょう。

今の時代を生きる人々には、大量の情報の中から必要なものを吸い上げ、質の良いモノを速くアウトプットすることが求められます。それに対処するための方法の一つとして、設計技術開発者のノウハウ、つまりデザインテックあたりの活用が効果的だと考えられます。

①から③の成果物は、

 ① モノ=現物
 ② モノを作る方法=設計
 ③ モノを作る方法を作る方法=デザインテック

です。

①→②→③の順に抽象度が上がっています。ですから、①→②→③に行くほど、汎用的に使える成果物となっています。つまり、①は人形そのものなので、人形としてしか機能しません(あるいは、筋トレの道具としてくらいなら……)。②は同じ種類の多数の人形を安定したクオリティで作るために使えます。③は人形以外のモノを作るためにも使えます。

ですから、②よりも③の方が他のものに転用しやすいのです。この例の「人形の設計図」が日常に役立つ可能性は極めて低いですが、「作図手順書」の中のノウハウや考え方は、例えば、わかりやすい図解をプレゼン資料に載せるときに役立つ可能性があります。少なくとも②よりは汎用性があります。

設計図という切り口の一例なので「作図手順書」という少し転用をイメージしにくいデザインテックでしたが、デザインテックには他にも、計算、プロセス・プロジェクトの遂行、最適化、見える化、タスク管理、アイデア発想、問題解決……など多岐にわたります。デザインテック思考では、これらのエッセンスを日常に応用することを考えます。

デザインテック思考で改革を

設計技術は、厳しいモノづくりの世界で進化してきました。その考え方や方法を、デザインテックとして日々の生活における広い意味でのモノづくりに応用しましょう。

モノを作る前に、上手に作るための方法を作る(=設計する)方がうまくいきます。さらにその前に、上手に作るための方法を作る(=設計する)ための方法(=デザインテック)について考える方がうまくいきます。デザインテック思考は、設計の一つ上の次元の思考と言えます。メタ設計と言っても良いかもしれません。

デザインテック思考により、個人として、チームとして、会社として、質の良いアウトプットが増えるでしょう。目標が達成されやすくなり、トラブルが減り、ストレスが減るでしょう。

いま、日常生活にデザインテック思考が求められているように感じます。

1つだけ上手に作れたら、当たりです。
1種類のモノを上手に作れる方法を見つけたら、成功です。
多種類のモノを上手に作れる方法を見つけたら、改革です。

改革は、作る方法を作る方法から。

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Posted by kizuki